漫画『乱と灰色の世界』の魅力は作り込まれたファンタジー感 | レビュー・感想・考察

乱と灰色の世界 サムネイル 漫画

ふと第1巻を手にとった『北北西に曇と往け』がとても良かったので、作者・入江亜季の過去作である『乱と灰色の世界』を読んでいます。

実は、大学時代からずっと気になっていた作品でした。しかし当時は気になる漫画すべてを変えるほどの金銭的余裕がなく……。(まあ今も全然余裕はないのですが)

このファンタジー色つよめの世界観は、読めば読むほど、どっぷりハマってしまいます。

『乱と灰色の世界』あらすじ

10歳の女の子、漆間乱(うるま・らん)には秘密があった。彼女にはサイズが合わない、だぼだぼのシューズ。これを履くと、みるみる変身! グラマラスな美しいオンナへと成長できる。「子どもはイヤ、早く本当の大人になりたいな」。ところがある日、変身後の姿のまま、乱は初恋に落ちてしまった! ……地方都市・灰町を舞台に、4人の魔法使いに起こった4つの大事件を描くマジック・アンド・ライフ。灰町に隠れて暮らす漆間一家に、幸せの日々が訪れるのはいつになることやら。

「大人の姿に変身する」という能力をもつ主人公。『魔法の天使クリィミーマミ』や『ひみつのアッコちゃん』などを彷彿とさせる設定ですね。

個人的には、『おジャ魔女どれみ』のハナちゃんを思い出します。

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作者・入江亜季

香川県生まれ。2002年、ぱふ(雑草社)にて入江あき名義で掲載された「フクちゃん旅また旅」でデビュー。2004年、読切シリーズ「群青学舎」を連載。2006年、個人誌の作品をまとめた単行本「コダマの谷」を刊行。2008年より連載を開始した初の長編作品「乱と灰色の世界」は7年間にわたり執筆され、2015年に完結を迎えた。

参考:コミックナタリー

2021年現在は、漫画『北北西に曇と往け』を連載中。こちらの作品は、ファンタジー色は弱まっているものの、とある能力をもつ青年が主人公。彼がアイスランドで探偵として生活しながら、さまざまな人と出会う「少し変わった日常」のお話です。

感想・レビュー

絵が古い?

ずっと表紙は気になっていた『乱と灰色の世界』。初見の印象は、高橋留美子などサンデー系の漫画家チックな絵柄だな、と思いました。

友達にちらっと見せたときには、「これ、古いマンガ?」との感想。言わんとすることはなんとなく分かります。

おそらく「線が多い」「線が太い」といった要素が、そう見える原因でしょう。とくにキャラクターデザインは、80年代の少女漫画を思わせるような「ベタッ」としたタッチです。

まあ確かに、現在連載中の漫画『北北西に曇と往け』と比べると描き込みが多く、悪く言えばゴチャッとしているようにも見えます。

ですが個人的には、この手のファンタジー作品は描き込みが少ないとむしろ「魔法が魔法っぽく見えない」ような気がしてしまうので、むしろ世界観とマッチしていているのでは?と思います。

魔法が魔法っぽく見える

『乱と灰色の世界』の独特な“ベタッと感”、そして描き込みの多さは、「魔法が魔法っぽく見える」というリアリティを生んでいる気がします。別の作品を例に、僕が言いたいことをもう少し噛み砕きましょう。

たとえば「魔法」を扱う作品として、『ハリー・ポッター』シリーズがあります。

ハリーが人間の世界から魔法の世界へと足を踏み入れるときのワクワク感が、僕は大好きです。ハリーと一緒に自分も魔法使いとして、ダイアゴン横丁やホグワーツに訪れているような感覚になります。

そう思えるのは、物語に直接関係のないセットや小道具まで、画面内にある全てのものが「魔法界のリアル」を作っていたからだと思うのです。極端な話ですが、『ハリー・ポッター』シリーズに登場する小道具の数が半分だったら、作品の魅力も半減すると思います。

僕は、これと同じことが漫画にも言えると思うのです。たとえば『ONE PIECE』は、伏線回収やストーリー構成が魅力的ですね。そして熱心な読者は、たった1コマの描写からも考察を膨らませています。

そこまで読者を駆り立てる理由は、『ONE PIECE』で描かれる少し不思議な海賊たちの世界が、描き込み量に裏打ちされた「リアルな世界」だからではないでしょうか――。

『乱と灰色の世界』もまた、現実離れしたストーリーです。それでも読んでいくうちに、自然に没入していってしまいます。その理由はやはり、多彩な描き込みが作り出す「リアリティ」があるからだと思うのです。

作り込まれたファンタジー感

このように『乱と灰色の世界』の魅力の1つは、熱が入った描き込みが生み出すリアリティ・没入感だと思います。

僕がとくにすごいと思う「描き込み」の要素は、トーンやベタ塗りの細かさです。

主人公の乱(らん)は、大人に変身すると、髪の毛の量も増えます。髪の毛の根本はベタ塗り、中間はトーン、先端のほうは線のみと、キャラクター1人とってもすごく細かく描き分けられています。

また作品全体をとおして、白い点や星マークを散らされており、ファンタジーならではの「キラキラ」した感じが視覚的に体験できるのです。

この「キラキラ」をよく見ると、ベタ塗りの中に白を残したり、トーンの部分は削っていたりと、おそらくかなり細かい作業をしていそうな……。

『乱と灰色の世界』をより楽しむには、サラ読みでストーリーだけ追うのではなく、ひとコマひとコマの芸の細かさを味わうのがよいでしょう。

じっくり鑑賞するほど、この作り込まれたキラキラのファンタジー世界に、いつの間にかのめり込んでいるはずです。

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