発売直後から入手困難?漫画『虎鶫 とらつぐみ ―TSUGUMI PROJECT―』のレビュー・感想・考察

虎鶫 サムネイル 漫画

『虎鶫 とらつぐみ ―TSUGUMI PROJECT―』という作品が気になって本屋へ行きましたが、売り切れていました。2~3店ほど見てまわりましたが品切れしていて、やっと見つけた1巻、2巻は重版本でした。(2巻は発売から3週間も過ぎていないので、初版本を狙っていたのに……)

なんでもフランスからの逆輸入作品として、連載初期から話題を集めていたそう。実際読んでみましたが、面白いです。続きが気になります。

『虎鶫 とらつぐみ ―TSUGUMI PROJECT―』あらすじ

はるか未来──。
高放射線量下で異形の生物たちが跋扈する、永きにわたり人の住まぬ“魔境”となった地、「旧日本」。無実の罪で妻と子から引き離され死刑囚となったレオーネは、「成功か死か」の極秘任務を命じられる。そこでレオーネは少女や巨獣など数々の異形に出会う……。

舞台は、260年前に滅んでしまった日本の跡地。フランス人の罪人が集められ、日本へ送り込まれます。罪人たちに課された任務は「TORATSUGUMI」という極秘ファイルを手に入れること。そしてこのファイルは、日本が滅ぶ原因となった「核戦争」の、引き金だったそう――。

日本へ送り込まれたレオーネは、「とら」と「つぐみ」に出会い、なぜか懐かれるようになっていきます。とらは、虎とも熊ともつかない、巨大な怪物。そしてつぐみは、青白い髪の毛に赤い目、鳥のような見た目の強靭な脚をもっている少女。果たしてこの2人(2匹?)の正体は……。

滅んだあとの日本を描く、ディストピア系SFファンタジー作品です。週刊ヤングマガジンにて連載されています。

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『虎鶫』の魅力

日本で何が起こったのか、謎解き要素

『虎鶫』で描かれるのは、2285年の日本。260年前(2025年)に起こった核戦争によって、日本は放射能に汚染されてしまい、人が住める環境ではなくなりました。

しかし人間の代わりに、正体不明な生物が住み着いています。作中ではじめに現れるのは「服を着た何か」という生き物。『もののけ姫』のショウジョウを彷彿とさせる、気味の悪い見た目です。

たった260年の間に、未知の生物が進化を遂げるということは考えにくいので、これは「TORATSUGUMI」に関連して誕生した生き物なのではないでしょうか。では一体、「TORATSUGUMI」とは何なのか……。

2巻までの時点で、どうやら鍵になりそうなのが「佐渡(さど)」。「佐渡金山」や「鬼太鼓」などの文化が、物語に関わってくるのでしょうか……?

謎解き要素も楽しめる作品です。

圧倒的なスケールの物語に没入できる、高い画力

あらすじだけ見ても分かるかもしれませんが、『虎鶫』は圧倒的なスケール感の物語です。

260年前に滅んだ日本、放射能に汚染された日本、フランスが狙う機密文書、そして正体不明の生物たち。これらの要素に違和感なく没入するには、画力の高さとリアリティが必要です。

その点『虎鶫』の画力はかなり高いので、かなり没入感に浸ることができます。とくにスゴイのは背景描写。倒壊寸前のビル群や、崩壊した高速道路などは、まさに「滅んだあとの日本」です。崩壊した日本を見たこともないのに、なぜか納得感があります。

また重々しい「湿度」というか「煙っぽさ」というか、独特の空気感が伝わってくる絵柄が魅力的。かと言って漫画全体がゴチャッとしたり、黒っぽくなりすぎたりしていないバランス感はかなりハイセンスに感じます。

とにかく、つぐみが可愛い

好みは分かれるかもしれませんが、とにかくつぐみが可愛いのも本作の魅力。鳥のような脚と、人間の華奢な体型とのギャップ。幼い少女のようでありながら、野生を生きる力強さも兼ね備えています。


レオーネに懐いたつぐみは、つたない言葉でコミュニケーションを取るようになります。「ごほうび」と言ってボロボロの人形を渡したり、満面の笑みでフランス語を真似したり。

かと思えば、「獣」のように非常な“狩り”を見せつける場面も。このギャップが魅力的です。

『虎鶫』はどんな人にオススメ?

五十嵐大介が好きな人

五十嵐大介は『リトル・フォレスト』『海獣の子供』『SARU』などで知られていますね。自然や動物を主題として、幻想的なストーリーを描くのが特徴です。

なかでも個人的に好きなのが、『ディザインズ』という作品。(全5巻)遺伝子操作で誕生した「皮膚や脚がカエル」の女の子が主人公です。

動物っぽい造形にはリアリティがありつつも、凛としていて美しい立ち姿に、惹かれてしまいます。『虎鶫』のキーパーソン・つぐみとどこか似ている雰囲気なので、五十嵐大介のキャラデザインが好きな人におすすめです。

『メイドインアビス』や映画『ミスト』の世界観が好きな人

『虎鶫』で描かれる荒廃した日本には、正体不明の生物がウヨウヨ存在しています。

未知の生物の魅力が好きな人にはおすすめ。『メイドインアビス』やに出てくる生き物に惹かれる人なら、少しグロテスクな敵キャラに魅力を感じるのではないかな、と思います。

また荒廃した世界でモンスターと遭遇し、ピンチを迎える――。そんなテイストは、映画『ミスト』と似通っているかもしれません。『虎鶫』の絵柄は、どこか重々しい「湿気」のような雰囲気がうまく表現されているので、世界観も少し似ている気がします。

作者・ippatuって何者?

『虎鶫』の作者はippatuという人物ですが、ヤングマガジン公式サイトにも情報がなく、過去作もないので、かなりミステリアスな人物です。

ツイッターアカウントには、「『竜とそばかすの姫』キャラデザ参加」と記載されていて、漫画家以外の活動もしている様子。ツイートをさかのぼっていくと、どうやら中国などでも活動しているうえ、おもちゃのデザイン系の仕事を受けているそう。

MANGA NEWSというサイトの紹介ページによると、どうやら『孤独のグルメ』で知られる谷口ジローや、『BLUE GIANT』『岳』で知られる石塚真一のもとでアシスタントをしていたそうです。(参考:IPPATU | MANGA-NEWS)

第2巻の巻末には、『僕のヒーローアカデミア』の堀越耕平が描いたつぐみの絵が付録されています。ippatuいわく、昔のクリエイター仲間だそう。

ippatuのツイッターアカウントはこちら

真心一芭という名義で活動していた

上記のMANGA NEWSというサイトから、ippatuの過去作も明らかになりました。藤子不二雄(A)の『シルバークロス』という巨編をリメイクした作品で、「QQQ編」と「カリギュラ編」の全2巻です。

名義は真心一芭(まごころ いちは)。「一芭=イッパ」とも読めるので、なにか名前にこだわりがあるのかもしれませんね。

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フランスから逆輸入ってどういうこと?

『虎鶫』は『TSUGUMI PROJECT』というタイトルで、フランスで先行発売されていました。販売元は、「Ki-oon(キューン)」というフランスの漫画専門出版社。東京にもオフィスを構えている会社です。

実は2015年に実写映画化もされた漫画『予告犯』も、このKi-oonという会社が販売し、逆輸入したもの。ただし作者は日本人です。

『虎鶫』のようなオリジナル作品以外にも、フランスではジャンプ漫画のフランス語版を刊行するなどしているそう。実はフランスでは日本の漫画がとても人気だそうです。(参考:フランスの若者の文化の中心は日本のマンガだった! | World Voice)

【おまけ】『虎鶫』2巻までの考察

ちょっとだけ考察します。ネタバレはなるべく避けますが、読んだ方向けの内容です。

トラツグミという鳥

トラツグミという鳥が実在します。スズメ目ツグミ科らしいです。Wikipediaを参考にして調べてみましたが、物語のヒントになりそうなポイントがいくつか。

ひとつはトラツグミの鳴き声です。「ヒィー、ヒィー」と甲高い音で、夜中から明け方にかけて鳴きます。この声は古くから不気味がられていて、「鵺(ぬえ)」という妖怪の出す声だと考えられていたそう。

『虎鶫』第1巻34ページ目では、日本に到着したレオーネが、夜中に「ヒィィィ、ヒィィィ」という音を聞いて不気味がっています。これはもしかしたら、つぐみが鳴いていたのではないでしょうか。

とらの正体

トラツグミの鳴き声が「鵺(ぬえ)」のものだと考えられていたという点から、とらの正体は鵺ではないかと予想しています。

妖怪の鵺は、「猿の顔、たぬきの胴体、虎の手足、蛇の尾」を持つとされています。『虎鶫』に登場するとらは、「猿の顔」や「蛇の尾」を持っている描写はないものの、屏風などに描かれている姿とかなり似ています。(参考:鵺(ぬえ) | Wikipedia)

また鵺は現代的に言うと、「キメラ」のような生物とも捉えることができます。「TORATSUGUMI」という文書が「科学的にキメラを合成する」という内容だった場合、荒廃した日本に住み着いている奇妙な生物たちは、その実験の結果生まれたものではないでしょうか。

佐渡おけさ

『虎鶫』第2巻68ページ目では、つぐみが「佐渡おけさ」という民謡を歌っている描写があります。佐渡おけさが定着したのは、佐渡金山の鉱夫たちが歌っていたからだそうです。

またつぐみが佐渡おけさを知っているのは、劇中の描写から察するに、おそらく母親が歌っていたからだと思われます。回想シーンでは、鳥の巣のような場所に入った赤ん坊のつぐみ(脚部分が鳥なのでつぐみだと思われる)に対し、女性らしい誰かが佐渡おけさを歌っています。

佐渡おけさは、民話「佐渡情話」のアレンジバージョンに取り入れられたことによって、大ヒットしたことがあります。佐渡情話とは、離れ島である佐渡に住んでいる女性が、本州に住んでいる男性に恋をするという物語。

女性は、たらいで海を渡って男性のもとへ通っていましたが、あるとき波に飲まれてなくなってしまいます。その原因は、交際相手の男性が灯台の火を消したことで、女性が目印を失ったため。あとから悔やんだ男性もまた、海へ身投げするのでした――。

もしかしたら、つぐみの母親のエピソードが描かれるときには、佐渡情話のような悲恋が明らかになるのではないでしょうか。

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