【今さら名作レビュー】は、過去の名作を観た感想・レビューを紹介していくシリーズです。
基本的に映画の作品情報以外は、他の人のレビューや解説を一切調べずに書いていきます。
他の人の解釈・解説を参考にした場合は、引用を明記します。
もしかしたらすでに一般に浸透するほど広まっている解釈や、他の人の考えと重複してしまうこともあるかもしれませんが、あくまで映画を観た感想を書いているだけですのでご容赦くださいませ。
今回はアルフォンソ・キュアロン監督の映画『ゼロ・グラビティ』(2013年)です。
※ネタバレを含みますので、未鑑賞の方はご注意ください。
とりあえずテーマは「誕生」的なことだと解釈した
序盤から息もつかせぬ展開が続きますが、鑑賞後にもっとも印象的だったと感じたシーンが、ヒロインのライアンがISS(国際宇宙ステーション)に到着した直後のシーンです。
序盤からずっと宇宙空間に放り出された状態が続いていて、ストーリー的にもこのシーンがひと区切りのタイミングでした。
やっとこさISSにたどり着いた彼女は、宇宙服を脱ぎ、十分な酸素を吸って安堵の表情を浮かべます。
丸いエアロック(出入り口)をバックに、管状の部品のようなものが浮遊し、無重力空間の中でリラックスして体を丸める彼女の姿は、胎児のように見えます。
そしてもう1つ印象的だったのがラストシーン。ポッドごと池のような場所に着水し、溺れそうになりながらも、もがいて地上を目指します。
宇宙から地上に降り立った直後なので、陸に上がっても当然、すぐに上手く立ち上がることができません。まるで生まれたての子鹿のように、一生懸命に大地を足で押し返すようでした。
ざっくりとストーリーは3部構成
テーマが「誕生」的な何かだとして、どういう意味があるのかをもう少し考えたいのですが、そのためにざっくりとストーリー構成を捉えてみようと思います。
1.宇宙でトラブル発生→ISSを目指す
2.ISSから神舟を目指す→ソユーズが動かない、もうダメかも
3.なんとか神舟へ到着→地球を目指す
宣言通り非常にざっくりとした分け方になりましたが、「生命の誕生」のメタファーだと捉えると、それぞれの構成はこう考えることができると思います。
1.混沌を経てライアンとマットが生き残る(男女ペア:精子と卵子)
2.地球へ帰るための具体的な手順を踏んでいく(胎内で成長)
3.燃え盛る炎をまといながらなんとか生きて地上へ(出産:誕生)
ちょっと精子と卵子のメタファーと考えるのは極端すぎる感じもしますかね。
極端ついでにもう少し述べると、一定間隔で周回するスペースデブリは陣痛のメタファー、ラストの水中のシーンは羊水のメタファー、みたいなこともちょっと考えました。
ついつい整合性や合理性だけでシーンを捉えてしまいがちになっていますが、じゃあ厳密に言えばストーリー的には不要?と言われるとそうでもなくて、そもそも奇跡的な生還の条件として水辺に着水することがほぼ必須だったり、ストーリーの根幹がスペースデブリの発生だったりするので。
ちょっと整理できなくなってきたので、いったんこのへんでストップしておきます。
キャラクターの背景はどういう意味?
ただ単純に“「誕生」やその神秘を表現した映画だよ”とは言うことができなくて、その1つの原因はヒロイン・ライアンの人物像です。
マットとの会話の中で、彼女の過去が掘り下げられていき、不運な事故で娘を亡くしていることが分かります。
ずっと体調がよくなさそう、あまりジョークを言わない、同僚が音楽を流しているのを止める、など少し気難しく見えるような描写がありましたが、その1つの要因として過去を引きずっていることが暗に示されているようでした。
「誕生」のアンチテーゼとして設定するとしても、「娘の死」ってなんだかしっくりきません。対比させるとしたら「死」そのもの、たとえばブラックホールとか?(現実味が一気に薄れるが)
というか、宇宙空間それ自体が、生命が生存できない環境としてすでにアンチテーゼになっていますよね。
それなのに、なんでわざわざ彼女の人物像をこんなふうなやり方で掘り下げたのでしょう?
あとストレートに「誕生」がテーマだと考えると、中盤の胎児を表現したようなシーンの後で、絶望して自ら死を選ぼうとするシーンがあることの辻褄が合わないような気がします。
1回死んで生まれ変わる話ってこと?
ということで、誕生の神秘という普遍的なテーマではなく、ライアンという一度挫折した人間が、絶望的な死の淵でなんとかもがいて、その結果新たな生を勝ち取り「誕生」する、Re:Birth(再誕)的なものを描いていると考えるほうが自然かもしれません。
めちゃくちゃ極端に無理やりまとめると、
「宇宙って壮大やろ?生命って神秘的やろ?アンタも色々大変かもだけど、ちっぽけなもんよ、宇宙に比べたら。ということで、いざ、Re:Birth」
みたいな話なのかもしれません。
感想まとめ
まあグダグダと考察してみましたが、感想としては普通に面白かったです。
まず映像がすごすぎる、ずっと宇宙のなかで無重力の描写だけど、どうやって撮ってどうやって演技してるんだろう、と思いました。あとで調べてみよう。
あと「ノンストップ」という感じがずっとしていて、息を呑む展開が続くのでずっとハラハラドキドキして楽しかったです。
宇宙のことを考えながら眠りにつきます。なんだか思わずくしゃみをしそうです。